ヤマハ株式会社

音・音楽のパワー

ヤマハは、音・音楽には、人々に大きな影響をもたらす力があると確信しています。

ありのままの自分を表出し、自分と向き合うことで成長する。言葉では伝えられない想いも音に乗せ、人々と心が通じ合う。音・音楽は、そうしたかけがえのない心震える瞬間を可能にしてくれます。

私たちがアメリカと台湾で行ったアーティストたちへのインタビューは、LGBTQ+当事者であるミュージシャンにとって、こうした音楽の持つ力やその意味を明らかにしています。同時に、アーティストたちの物語は音楽業界の多様性に光を当て、ポジティブな変化を起こすために私たちに何ができるのかを考えさせてくれるものです。

ヤマハは、これからも、LGBTQ+コミュニティのアーティストや音楽制作者、サウンドエンジニア、お客様、従業員、そしてすべての人をサポートし、自ら一歩踏み出そうとする人々の勇気や情熱を後押しし続けます。

 

壁を打ち破る

ヤマハ・コーポレーション・オブ・アメリカ

受賞歴のあるフリーランス・ジャーナリスト Emily Starbuck Gersonによる、3人のヤマハアーティストへのインタビューをご紹介します。Emilyは多感な時期の多くの時間をクラシックやロックバンドでチェロを演奏して過ごした経験を持ち、自身もLGBTQ+当事者です。

このインタビューでは、コンサートピアニストにフルート奏者、サザン・ロック・ミュージシャンである先駆者たちが、LGBTQ+としてのアイデンティティが自分の芸術にどのような影響を与えているか、自分たちの作品をどのように再定義しているか、なぜ音楽が架け橋を築く力を持っているのかについて語ってくれました。

交差するアイデンティティ

話を伺った3人のアーティストは、ミュージシャンでありLGBTQ+コミュニティのメンバーであることが、どちらも自分たちの天性であり、自分たちの人となりと深く結びついている点を強調しています。

2010年にクィアのメンバーによるサザン・ロックバンドThelma & The Sleazeを結成したLGは、10代でミュージシャンとして演奏を始め、早い段階で自分がレズビアンであるとカミングアウトしていました。「実際のところ、私は自分を隠そうとしたことはありません。それに、音楽と私のセクシュアリティを切り離すものもありませんでした」と彼女は言います。「この2つは常に分かちがたい存在です」

LG.

 

フィラデルフィア管弦楽団のフルート奏者であり長年にわたり首席奏者を務め、ジュリアード音楽院の卒業生であり教授でもあるJeffrey Khanerも、幼い頃から音楽への情熱を見いだしていました。「中学1年生の時にフルートの演奏を始めてから、私は他の何をしたいとも思わなくなりました(Jeffrey Khaner)」

Khanerはまた、幼い頃から自分が同性愛者であることを自覚していましたが、それを隠す必要性を感じたことはありませんでした。大学時代の友人や新しい職場の同僚らから何年にもわたって、カミングアウトすることに対して警告を受けていましたが、彼は自分自身に忠実であり続け、彼の音楽に代弁させたのです。「多少心配していた時期はありましたが、それもほんの一瞬だけでした。そして、そのことを問題とする人たちがいるならば、それはその人たち自身の問題なのだろうと思うようになりました(Jeffrey Khaner)」。そして、もはや彼を困らせるような人は誰もいません。

Jeffrey Khaner.

人生を救う音楽の力

ジェンダー・アイデンティティについてカミングアウトするという経験は、ときに挑戦的なものにもなり得ます。Sara Davis Buechnerは複数のピアノコンクールで受賞歴のあるコンサートピアニスト兼教授ですが、彼女はまだ子供の頃から音楽に心を奪われていました。

Buechnerは男性として生を受け、若年の頃から性別に違和感を覚えていましたが、当時は社会的に汚名を着せられてしまうことや、トランスジェンダーとして生きることに関する情報が乏しかったこともあり、カミングアウトは不可能であると思われました。代わりに、彼女は音楽を使って自分の魂を落ち着かせ、自分を表現したのです。

彼女は10代前半には自分の気持ちを言葉にすることができなかったものの、交響楽団に参加することで安堵を感じていました。Buechnerはこう言います。「コンサートホールにいて音楽が沸き起こってくるのを聞くとき、それが私の『It gets better(物事や状況はよくなる、の意)』セラピーでした。自分の中にある音楽に従えば、いつも真実で正直で美しい境地に連れて行ってもらえることを知っていました。なので、そうしたのです」。彼女は生まれてから35年間、自分の芸術に集中することで、癒し、美、文化、安らぎを、常に手にすることができました。

Sara Davis Buechner.

流れを変える

Buechnerのキャリアが急上昇した30代、彼女は自分の心の中をじっくりと見つめました。その頃は1990年代後半、ネット上で新たな情報やコミュニティ手に入るようになったことで、彼女は今が「Sara」としてデビューする時期だと判断したのです。

しかし、Buechner自身は心の調和が取れていると感じられたのに対して、彼女は同僚からぞんざいに扱われるようになり、彼女のキャリアは全く上手くいかなくなってしまいました。「私は仕事面でのつながりを失い、事実上解雇され、私をよく指名した指揮者は電話に出なくなり、誰も私と一緒に演奏したいと思わなくなったために室内楽(の仕事)は消えてしまいました(Sara Davis Buechner)」。生計を立てることがままならなくなったBuechnerは、カナダに移住しました。カナダでは彼女の知名度は高くなく、純粋に音楽の才能だけで名を馳せることができたのです。

Buechnerは最近、著しい変化を感じています。以前彼女を見捨てた指揮者の中に、彼女と再びつながり、もう一度一緒に仕事をしたいと思っている人がいるのです。「私は怒りやプライドを飲み込まなければなりませんでした。しかし、人はより良く進化し、変化し、学習する存在です。だから、私はその美点に注力しようとしています」と彼女は言います。また、若い同僚や学生たちが、LGBTQ+であることは特別な問題ではなく、大事なのは音楽に他ならないと考えていることに感銘を受けています。

さらに、芸術においてもこれまでになく多様性が重視されていることもあり、かつてはBuechnerの経歴を傷つけたアイデンティティの一部が今や彼女の財産である、と彼女は言います。彼女は現在、かつてないほどスケジュールが詰まっている、とも教えてくれました。

道を切り拓く

LGがパフォーマンスを行う場所は必ずしもLGBTQ+フレンドリーとは限りません。ですが、彼女は恐れを抱いて生きることはしないのです。「サザン・ロックのガールズバンドのメンバーでいるためには、どの部屋に行くにも自分の部屋に行くときのように自信を持って足を踏み入れていかないと、入室を断られてしまいます(LG)」

そして、同性愛者であることはLGのアイデンティティの大きな部分を占めているものの、彼女は同性愛者という型にはめて見られたり、LGBTQ+コミュニティだけにアピールしたりしたいとは思っていません。彼女はほとんどどこでも演奏を行い、自分を見失わず、そして自分の考えを述べます。彼女は自分の演奏が変化を生み出し、受容性を育むことを期待しているのです。

LGは、全く歓迎されない会場での演奏でさえも、人々を動かし、架け橋を築く機会だと考えています。そうしたイベントでは、往々にして自分を攻撃してくる人々に立ち向かわなければならないにもかかわらず、彼女はこう言います。「私は敢えて、そういう場所にも行くようにしています。過激なクィアカルチャーに触れたことのない人たちがたくさんいる部屋に入ることができれば、その人たちは『ねえ、私はロックが大好き、カワイイ子が、ヘアスタイルが、ハイテンションが、ギターが大好き』と言ってくるでしょう。そこで私はこう思うんです。『それなら、クィアも大好きなはず!』って」

Buechnerも同じようなアプローチを採用しています。トランスジェンダーの人々にとって安全ではなかったり、フレンドリーではないエリアを避けるのではなく、彼女はリスクを冒しても、自分を表現して架け橋を築くための機会として利用します。彼女の演奏が問題になるかもしれないと思えるような町でさえ、彼女の見方や考え方に触れられたことに感謝しようと、コンサート後に観客が彼女のところにやって来ます。「私のような人が登場し、ステージに上がり、これは障害ではないと言うことは、観客にとって大きな意味があります。これが私であり、誇りに思っています(Sara Davis Buechner)」

広がる演目の多様性

アメリカでは、社会問題に対する関心や意識が驚くほど高まってきているものの、まだまだ遅れているとBuechnerは言います。そして、クラシック音楽業界では歴史的に、演奏家にも演目にも多様性が欠けていることに言及しています。

彼女がジュリアード音楽院で学ぶ中で、譜読みの練習のために学校の図書館を訪れて楽譜を探していたとき、なじみのないピアノ曲のレパートリーの多さに驚きました。彼女はそれから毎日何時間も図書館で過ごし、譜読みのスキルを磨き、誰にも聴かれていないような音楽を学びました。それ以来、Buechnerはあまり知られていない音楽も彼女のコンサートで演奏することを個人的な使命としていますが、他の演奏家たちも同じことを始めていることに気付いています。

Khanerもこの変化に気付いています。音楽の楽しみ方が多様化するにつれて、音楽業界は、音楽を創り、届けるための新しい方法を見つけざるを得なくなりました。それだけでなく、この変化が引き金となって、女性やマイノリティーによる音楽を耳にする機会が増えた、と彼は言います。

「これまで聞いたことのないような音楽を紹介されるようになりました」とKhanerは言います。例えば、フィラデルフィア管弦楽団の音楽監督であるYannick Nézet-Séguin(彼も同性愛者です)は、20世紀初頭に活躍したアフリカ系アメリカ人女性作曲家であるFlorence Priceの交響曲を優先して演奏し、レコーディングしました。Khanerは言います。「Florenceの交響曲は素晴らしいです。私はどうして彼女の曲を聞いてこなかったのか、前から彼女の曲を知らなかったのか、不思議でした。なぜこれほど素晴らしい曲がレコーディングされてこなかったのでしょうか」

レガシーを残す

Khanerは自分が後世に伝えるものとして、次世代のフルート奏者を指導することに意義を見いだしています。何年か前には演奏できないと考えられていたような、超絶技巧的な厳しいフルート音楽の新譜の演奏をこなす若い世代の自信と能力に、彼は驚かされています。Khanerの目標は、生徒が音楽を続けるかどうかにかかわらず、音楽を演奏することによってしか得られない問題解決のスキルを生徒に残すことです。彼はまた、2020年以降に起こった様々な出来事に刺激された創造性が、アーティストにとっての無数の新たな可能性への扉を開いたと信じています。

また、Khanerは伝統的に限られていたフルート奏者向けの演目の幅を広げたことでも、大きな功績を残しています。優秀な作曲家たちというものは得てして、ピアノや弦楽器向けの曲ばかり書いている、と彼は指摘します。そのため、彼はフルート向けに編曲し、自分のために音楽を書き、大量の新譜の初演奏も行いました。Khanerのキャリアに注目が集まったもう一つの功績は、ヤマハとの協力でオーケストラのピッチに適した音階のフルートをカスタムで作ったことです。このフルートは後に、他のプロのフルート奏者も演奏に使用しています。

LGも、文化的な障壁を打ち破り、自分の後継となる人たちが音楽業界で今以上に支持や理解を得ていることを誇りに思っています。彼女のバンドにはローテーションで参加するミュージシャンがいるのですが、彼女はこうしたミュージシャンたちを、彼女の言葉を借りれば「ボーイズクラブ」に囲まれて若い女性ミュージシャンが指導を受けるための機会として利用しています。

彼女は言います。「こういった女の子たちは私と一緒に演奏して、音楽大学では学ばないようなことを学びたいと思っています。演奏が上達する方法だけでなく、その場でどうすればアイコニックになれるかという方法も」。彼女は、自分が他の女性やクィアの人々に刺激を与える存在であることを知っていて、それがバンドを続けるモチベーションになっていると打ち明けてくれました。

Buechnerは、現在カナダで作曲家として成功している元教え子で同性愛者のJared Millerや、ブルックリンを拠点とする団体ChamberQUEERなど、一緒に仕事をした若いLGBTQ+アーティストからも同じように刺激を受けています。彼女は、人生の早い時期から本格的に音楽家として生活している若いミュージシャンに驚かされるばかりです。しかしそれだけにとどまらず、退化するのではなく前進し続けるために、彼女は自分のストーリーやLGBTQ+コミュニティの歴史を伝えています。彼女は言います。「トランスジェンダーであること、そしてトランスジェンダーとして育ったことについて若者たちに話すとき、私が本当に伝えたいと思うのは、声を上げること、積極的に行動すること、関心を持つことが重要であるということです。自分たちの権利や人間性や平等のために戦わなければ、私たちはいとも簡単に後戻りしてしまうということを知らなければなりません」

 

音楽で自分を表現する

台湾山葉音楽

ヤマハアーティストの芮秋 Rachel Hsuは、バンド P!SCO のリーダー、ギタリストであると同時に1人のトランスジェンダーでもあります。彼女が自分のアイデンティティを探し求めた道のり、さらにRachelの人生における音楽の意義についてシェアします。

Q:現在のあなたにとってジェンダーや性別はどんな意味を持っているのでしょう?

A:自分自身を探求する道のりを歩んできたので、自分は他者から「どんな人」に見られたいのかを自覚することがとても重要だと思いました。女性は自然にふるまっても良い、セクシーでも良い、たくさんの色々違うジャンルを試してみることができるはずです。同じように、男性だって強くてエネルギッシュであることもできるし、とてもキュートであっても良いのです。社会から与えられた性別の定義で人生が限定されるべきではないですし、それはとても残念なことです。

今の自分自身は割とナチュラルな感じですが、心の中では試してみたいスタイルがたくさんあります。また機会があればお話しします!

芮秋 Rachel Hsu.

Q:あなたのこれまでの人生で、音楽はどんな役割を果たしたのでしょう?あなたに与えた影響は?

A:高校からロックミュージックとギターに触れるようになり、その後、ついに人生の方向性が見つかりました。音楽は、私に夢を追う勇気を持たせてくれ、特に、辛く下り坂のような時に、音楽のパワーは、いつも新たに私を奮い立たせてくれます。だからこそ、私もこのような魔法を、音楽を通して多くの人に送り伝えたいと思います。

実は、演奏できる楽器はギターだけなのですが、ギターの演奏が好きでいられるのは本当に幸せなことだと心から思います。この後の人生もギターを愛し続けます。

Q:今、ジェンダー平等のテーマで、皆に一番呼びかけたいことは?

A:性別の枠を取り去って、より多くの女性バンドメンバーに様々な音楽ジャンルに挑戦して欲しいと思います。また、もっとたくさんのLGBTの仲間たちに、音楽という寛容な世界に入って、私たちと一緒にステージで自分自身を表現して欲しいと思っています。

■アーティストについて詳しくお知りになりたい方は、以下のURLをご参照ください:
LG(http://thelmaandthesleaze.com/)
Jeffrey Khaner(https://iflute.com/)
Sara Davis Buechner(http://saradavisbuechner.com/)
芮秋 Rachel Hsu(https://www.facebook.com/piscoband/)
■ヤマハについて詳しくお知りになりたい方は、以下のURLをご参照ください:
ブランドプロミス(https://jp.yamaha.com/about_yamaha/brand_promise/index.html)
ダイバーシティの推進とインクルージョン(https://www.yamaha.com/ja/csr/human_rights_and_labor_practices/diversity/)

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